『堆肥を作ったのに使ってくれない』、とはよく聞く話である。しかし、堆肥を使う立場に立って、何が求められているのかを知り、そのニーズに応えれば、間違いなく使ってもらえます。これまでは、畜産農家側は、どちらかといえば、ふん尿を仕方なく処理する、儲けにつながらない嫌な仕事だという気持ちが強かったように思われます。そうではなく、ふん尿という貴重な資源を耕種農家に利用してもらうために加工するという意識が必要です。そして、この畜産農家と耕種農家をつなぐカギの一つが堆肥の腐熟度の程度であり、良質堆肥の見分け方が決め手になります。
この堆肥は未熟であるとか、完熟に近いとかよく言われます。堆肥の腐熟度については、日常的に話題にもし、堆肥が未熟なうちに作物に施すと生育障害を起こす危険性があるので、十分完熟させる必要があるといったことは当然のこととして受け取られ、すべて分かったように腐熟度という言葉を使ってもいますが、未熟、完熟といってもそれほど単純なものではありません。
堆肥の腐熟度は、井ノ子・原田によると以下のように定義されています。
「腐熟とは、地力の維持・増強を目的として有機質資材を農業利用する場合に、あらかじめその有機質資材を処理して、微生物の作用によりある到達目標まで腐朽させておくことである。この到達目標とは、土壌に施用しても作物の生育障害を起こすことなく、土壌微生物に活動のエネルギーを十分与えて地力を維持し、作物の生産性を高めるような有機成分組成を持つようになるまでである。」
この到達目標に達した堆肥を完熟堆肥といっています。
ここで重要なことは、「作物の生育障害を起こす」、「作物の生産性を高める」というところの「作物」は、作物全般に共通なものではないということです。作物には、野菜もあれば、果樹もあり、園芸作物もあります。生育障害を起こすか否か、生産性を高めるか否かは作物によって異なります。ある作物に対しては、完熟堆肥として全く問題ない堆肥が、別の作物には未熟であり、障害を起こすことは十分考えられます。
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